定量的な報告

研究室の打ち合わせで定量的な報告について話したので、補足を含めてまとめておきます。

1.スタート地点と目標の定量
科学技術の進歩というのは段階的になされるものです。現在の状態があって、それに問題が有るから、ある目標に近づく必要があり、そのための解決策を考えました。というのが、工学における、研究や技術検討のステップになります。(以下、単に研究、と記載しますが、技術検討でも同様です。)
ということで、自分の研究の状況を報告する際は、先ずは研究のスタート地点を定量化して、聞いている人と共有しましょう。最初のスタート地点で共感を得られないと、その後の話を聞いてもわかりません。
次に目標を定量化しましょう。研究をした後に、どういう状態になるとこが望ましいのか、それも聞いている人と共有します。そうすることで、この研究をやる価値がどこにあるのか、判断できます。また、間違った目標に対して進んでいないかをチェックできます。

定量化の方法は研究テーマによって異なります。例えばシミュレーション時間を短縮したいのであれば、現在シミュレーションにどの位時間がかかっているのかを明確にするとこです。そして、どこまで短縮すれば良いか、というのを目標として定めます。ここで、何でその目標を定めたのか、という疑問に答えられるように説明する必要があります。
また、ソフトウェアシステムの機能を改善したいのであれば、現在の機能をリストアップして明確化します。そして、ある機能を追加する事で、この様に良い事がある、という事を説明して、それが目標である、と定めます。

研究でも会社での仕事でも同じなのですが、自分のやっていることの価値を、常に周りに説明して理解してもらわないと、評価してもらえません。

2.進み具合(進捗)の報告
進み具合の報告は、スタート地点を0%、目標を100%とした時に、現状を定量化して、何%、とするのが分かりやすいです。ただし、スタート地点と目標を定めただけでは、現在地点がどこなのか、把握する事は困難です。そのため、進捗報告は曖昧になりがちです。

簡易的な方法としては、目標をいくつかのサブ目標に分解して、例えば、「10項目中の6項目が達成できたので、進捗60%です。」という事でも良いでしょう。しかし、研究は単純作業ではありませんから、各項目が同じ様な困難さではありません。残りの4項目が期間内に終わるのか、わからないわけです。が、この様な簡易的な方法であっても、やらないよりはやった方が良いと思います。

より正確に現在地点を定量化するためには、計画、が必要です。計画に対して、現在地点を示す事で明確な進捗報告が可能になります。

複雑なものを作る時に、全部を一気に作る事は出来ないので、順番に少しずつ作っていくわけです。研究も一気に進むわけではなくて、目標に向けて部分部分の研究を進めざるを得ません。
という事で、スタート地点と目標を決めた後は、それを実現するための手段を考えて、細かい部分に分解するという作業が必要です。これが、計画、です。

計画の基本は、分解です。目標をサブ目標に分解します。さらに、サブ目標を、タスク(作業項目)に分解します。なお、制作系のテーマであれば、目標は「作るもの」と考えると、分かりやすいです。その上で、サブ目標の達成時期を考えます。これをマイルストーンと言います。マイルストーン達成のため、いつ何をやるか、タスクをスケジュールします。

目標を達成するために何をしないといけないのか、よく考えないと計画を立てる事は出来ません。機材やソフトウェアが必要かもしれませんし、書籍等の情報や、訓練教育が必要かもしれません。また、ここでは一人で研究を進める前提ですが、研究によっては人員の計画も必要です。人を使う場合は大変深遠な考慮が必要ですのでここではこれ以上書きません。

計画を立てている段階で、実は目標が達成困難である事に気付く事もあります。その際は、サブ目標がいくつか達成されれば良しとするか、目標の変更をするか、ですが、この辺の扱いはまだ良く分かりません。卒業研究ではサブ目標を達成すれば良しとする、かもしれません。
企業の開発案件であれば、顧客との約束が目標ですので、計画を練り直して何とかするしかないのです。「そもそも目標がおかしい」という事をあとになって言ってもしょうがないので、デスマーチに突入です。

計画は、いわゆるプロジェクトマネジメントや、ソフトウェア工学の重要なテーマでもあります。大変難しいものですが、不完全であっても、やらないよりはやった方が良いと思います。

もう一つ。計画を立てても計画通りに行く事はまずない、という事は認識しておいた方が良いです。特に研究ではその傾向が強いです。年に数回は計画の練り直しは必要です。

長くなりましたが、最後に。
卒業研究、大学院での研究では、目標は教員が選定したものから選ぶのが普通だと思います。また、サブ目標ぐらいまでは教員と話して決めていると思います。しかし、あまり細かい計画には立ち入らないでしょう。これを放置と見なすかどうか。学生の研究の計画を立ててあげるのは、あまりに時間を取られますし、学生が自分で計画を立てる学習の機会を奪ってしまいます。学生が自分で計画を立てて、それを教員が見て意見を言う、というぐらいが良いバランスかと思います。学生が計画を決めかねていたら、時には教員が決めてあげても良いでしょう。一般に自分で決めた事の方が頑張れるものですが、経験が浅いと自分で決めるのが困難な場合もあります。

ある程度の計画がないと、現在地点を見失い、時間だけが進んでしまい、終わる気がしない、とか、やる気をなくす、といった原因になります。

あと、教員側の注意点としては、あまりに計画を完璧にしようとすると、実際の研究がスタート出来ないので、学生にいらいらがたまります。計画にかけていい時間は数日でしょうか。この辺の感覚も、まだよくわからないので、今後修正していくかもしれません。

ちなみにこの辺のスキルは前の会社で学んだことです。大学での研究に上手く適合するか、まだ余り自信は無いですが、デキるエンジニアへの一歩である事は間違えないと思います。